医院開業をするか、しないか

マズローという心理学者の説では人間の欲求は5段階あると言われています。生理的欲求や安全の欲求などの欲求よりも高次元の最高段階の欲求は自己実現の欲求だという説です。

Drの働く場所として大きく教育機関、病院、医院と3つの機関にわけるとします。一般論で全体的を占める割合としては、病院勤務のDrと医院をご自身で経営される開業医の先生がほとんどです。この構成も年齢別に割合をみると顕著に傾向がでます。ご自身の努力、縁、実力、経験、想い、その他により自己実現の選択肢は多くあるでしょうが、ご自身の人生を客観的に見て「開業をするか、しないか」を意思決定する時がくると思います。

 意思決定の判断としては、「ご自身の経験・想いなど」「現在の環境」「将来想定される環境」「今後の医療行政」「家族」「メリット・デメリット」など多面的に検討すべきです。
  勤務にしても、開業にしても今後環境が大きく変わっていく可能性があります。というか変化がきて当たり前の時代かと思います。但し、基本的な方向性は見えてきていると思いますし、それを織り込み済みでご自身の人生を意思決定すべきかと思います。

 「ご自身の経験・想いなど」や個人的な「現在の環境」はご自身が一番お詳しいとして、一般論での「現在の環境」「将来想定される環境」「今後の医療行政」「家族」を個人的な私見として簡単に述べさせていただきます。

「現在の環境」を開業という視点から
@低金利時代(世界の金融の歴史を見ても現在の日本は低金利。今後インフレがおきる可能性は?)
A開業医の高齢化・世代交代(歴史的背景として大勢の元軍医世代の開業医が引退していっている)
B本格的な医療費抑制(財政難の問題もあり本格的な医療費抑制の時代へ突入、医院の新規開業の損益分岐点を見直す時期にきている)
C在宅医療や介護保険(医療費抑制の影響をからも、医療と福祉を基本的な方向性として分離・民間にも開放に)
D高齢化により患者数増加(2015年には人口の26%が65歳以上の予想(2001年18%、2005年20%))
E病診連携の時代(連携を保険点数を含め国が評価する時代。役割を明確に持つ方向性か?)
F広告規制の緩和(広告規制の緩和。ホームページは医療の広告規制にかかりません)
Gローコスト開業の形態開発(継承開業・建て貸しなどローコストでの開業形態・コンサルティングが出てき、少ない自己資金での開業が増加)
H患者満足を重視した経営の時代(患者の自己負担増もあり、患者自身の医療や健康に対する意識が高まっている。また、患者の環境として医院を選択できる立場に近づいている。今後規模要因よりも患者ニーズに対応できるかが成功確率を上げるポイントになってきている)

「将来想定される環境」「今後の医療行政」は連動していくと思いますし、様々な変化の可能性があるとおもいます。
しかし、まずは基本的に想定される要因を簡単にお話します。
将来を予想するのに確率性が高いのは人口構成ではないかと私は考えています。その人口構成を日本の人口構成と、Drの人口構成という面で考え。それが将来にどうなるかを想定することが基本かと思います。
当然国の方も統計でデーターは十二分に把握しており、以前の厚生省時代のゴールドプラン等もこの人口を基に地域医療圏の施設枠を計画的に決めていたと思われます。
それでは、日本の人口構成の特徴ですが少子高齢化と団塊世代の高齢化という問題があります。少子化は1.25レベルですから近い将来日本国内の人口減少が想定されます。それと団塊世代の退職問題・高齢化からも将来的には国の税収問題にも影響が出てくると思われます。また、医療的にみても65歳以上の疾病率は非常に高いため団塊世代の高齢化による医療費問題も予想されます。日本の医療は保険制度があるため国の予算と密接な関連性を持っているためです。
かといって日本の医療費が世界レベルからみて高いかといえばGNP比の医療費にすれば、先進国の中では安いほうだったと思います。これも保険制度の関係上でしょうが、どちらにしても国の財政難に加え、少子化、団塊世代の高齢化などといった日本の人口構造的な問題から医療費は抑制せざるをえない状況になってくると思われます。保険診療以外も増加してくる可能性が増えてくると思われます。

 また、Drの人口構成といった意味では、大きな特徴として国家的に軍医を多数輩出した時期と昭和45年から55年に新設された34の新設医科大学・医学部の影響が出てくると思われます。グラフ化すると2つの大きな山になってみえます。
このうち軍医輩出時代にDrになられた高齢の開業医の先生が引退・世代交代の時期にきていること(今真っ只中といったところでしょうか)、これがすぎれば現在の開業と廃業のバランスに変化が訪れると思います。もちろん廃業は少なくなり、開業は今のままか、もっと増えるかですが。新設医大以降のDrの方々も1年1年過ぎていくわけですから、ご自身の将来を意思決定していかなければいけない時期に来ている方も多いのではと思います。
  そこで、こんどは人口構成ではなくDrの労働構成の変化の可能性について私見を述べます(あくまで想像です)。
冒頭でも述べたように労働構成を大きく分けると、教育機関、病院、医院にわけることが出来ると思います。これが国の医療費抑制策と連動し、環境変化に影響を及ぼすと考えます。思うに国の意向として医療費抑制は明確に出ていますが、その手法としては多々ありますが、大きくは病院のベット数を減らし、在宅を増加、医療と福祉を医療保険から分離していくという大きな方向性があると思います。つまり病院が少なくなった時の今の病院勤務Drの働き場所はどこになるかが出てくると思います。
私見ですが、医院の開業が増えるが、開業形態としても投資額や損益分岐点も変化させた開業が増えるのではと考えます。

 次に「家族」という視点からですが、例としての実話をお話します。数年前あるDrから開業をするかしないかというレベルの相談を受けました。医院開業は事業なので開業するか、しないかをご本人の迷いがなく意思決定してすべきですよなどといった話などからからご家族の話になりました。先生はたしか42か43歳だったと思います。お子さんは3人いて将来Drになりたいと言ってくれば医大に行かせたいとの話でした。お子さんの年齢を聞いてみると下のお子さんが2歳の子供がいらっしゃいました。2歳といえば先生が定年を迎えた時でもまだ学生じゃないですかなどの話から、簡単なライフプランの話になり、そのプランを奥様と話をしてみるという話でした。数日後先生から「開業することを前提に打合せをしたい」と連絡がありました。
このように「家族」のライフプランをきっかけに医院開業を意思決定された先生もいらっしゃいます。
また、開業は家族も巻き込んだ事業であるため家族の協力が不可欠です。一時的に反対があっても(奥様は家族を守ることが第一にくるためいろんな話がでてくるのが普通です)最終的に協力体制が整わないとうまくいかないケースが多いと思います。

「メリット・デメリット」ですが、「メリット」としては一般的に
@自分がやりたい開業医としての医療を実現できる(やりがい)
A定年がない(引退を決めるのはご自身です)
B当直勤務からの開放(体力的な限界)
C経済的メリット(一般的に所得が増加します。しかし今後は勝ち組・負け組に大きく分かれる可能性もありますが)
次に「デメリット」としては
@事業であるためのリスク・ストレス(冷静な時にリスクを想定し、事前対策を練ることや、専門家の相談相手の存在があるか)
A守備範囲の拡大(医師としてだけではなく、経営者、あるときは事務長的な仕事も出てきます)

最後に医院開業は事業なので開業するか、しないかをご本人の迷いがなく意思決定してすべきだと考えます。動き出したら前を向いて進んでいくことになりますので、冷静に「開業するか、しないか」を検討意思決定することが大切と思います。