医院開業を取り巻く環境

 医院開業を取り巻く環境として、保険診療に絡む行政の財政危機的側面、日本の社会構造などを中心にお話したいと思います。

日本の医療は保険診療という側面から行政の決定事項に大きく左右されます。その行政の財政状況と将来の予測では、制度改革なしには対応できないといった状況です。

まず、日本の社会構造の側面として少子高齢化の急速な進展です。最近の調査でも2001年に18%だった65歳以上の高齢人口が2005年には20%を超え、予測では2015年には26%に達するとされています。且つ日本は世界一の長寿国でもあります。これについて言えば2001年の調査時点での2015年予測では25%台でした。なおお年寄りは疾病率も高く、その治療期間も一般的に長期にわたります。また、少子化の問題では世界でも最も低いレベルと言われ2005年合計特殊出生率は1.25人になり、2006年以降人口は減少傾向に進むと見られています。

次に現在の日本の国民医療は約31兆円、内高齢者の医療費割合は4割近くと言われています。国民医療費のみの推移でいくと1999年の30.7兆円から一見変化があまりないように思えますが、2000年度の介護保険制度の設立により医療費だったもの(一部)が介護保険に移行していったことからも実際の国の財政支出は増加しています。
また、疾病構造でも生活習慣病の増加により、一般医療費24兆円中1/3が生活習慣病という傾向も。
一方税収に関係する国民所得はバブル崩壊後マイナス成長を経緯したこともあり、ほとんど伸びていない状況です。それに上記のような少子高齢化、人口減少という社会構造がこんごさらに拍車をかけていくと推測されます。

つまり今のままでは医療費は上昇する一方で、国の税収は減少していくということになります。

行政の方向性としては具体的に制度改革の試案が平成17年10月19日厚生労働省から出ています。
詳細は情報が多すぎるので省きますが、その中ででてくる言葉としては、
「生命と健康に対する国民の安心感を確保」大前提。
「国民皆保険制度を堅持する」堅持するために変化するといったところでしょうか。
「予防を重視し」生活習慣病予防(介護も)の取組。検診や指導など。
「医療の質の向上・効率化等によって医療費の適正化」医療費の適正化のための施策。
「老若を通して公平かつ透明(医療費)」高齢者負担の見直し。
「国民の生活の質(QOL)を確保・向上」長期的方針。
「公的保険給付の内容・範囲の見直し」診療報酬改定など直接的な抑制施策。
「連携・協力」役割分担により効率化をすすめ、医療費を抑制する意向のようです。
「国、都道府県、市町村を含めた医療保険者」計画策定など。

医療保険の継続のためには変化(制度改革)は必須になるでしょう。しかし、国が「生命と健康に対する国民の安心感を確保」を掲げ「国民皆保険制度を堅持する」と言っていることからも医療全体を国が放り出すことはありえません。
但し、「医療の質の向上・効率化等によって医療費の適正化」をうたっていることからも効率化の流れにより勝ち組・負け組がはっきりしてき淘汰される医療機関は出てくるかと思われます。

これからの医院開業は変化がきても対応できる体制や勝ち組に残るための戦略が重要になってくるのではないでしょうか。シンプルに言うと経営的には変化がきても対応できるよう財務的に損益分岐点を下げる。医院は比較的狭い範囲を診療圏とするため地域に必要とされる医療機関となり、その地域で勝ち組になるといったところでしょうか。
最後にマーケットとしては、高齢化により日本国全体の疾病患者数の増加(そのために国が「予防」をかかげています)が予想されます。